人の身体にはエネルギー源の減少に伴い、「アミノ酸・乳酸・グリセロール」・ピルビン酸」からグルコース(糖)を体内で生み出す代謝サイクルが存在しています。このエネルギー源を新たに生み出す代謝反応を糖新生と言います。糖新生は「肝臓・腎臓」で行われる反応ですが、反応の多くは肝臓をメインに行われます。特に飢餓状態やダイエット時の低グルコース状態の時に糖新生は亢進し、グルコースの生産を促します。
出典:BIO-SCIENCEより
目次
1.糖新生とは
脳や臓器、身体が必要とする糖「グルコース」を体内で作り出す反応を糖新生と言います。糖新生の多くは肝臓で行われます。
肝臓で糖を新生する
身体に必要な「糖」を肝臓で新たに作り出すことが糖新生という現象です。
糖を燃焼する代謝サイクル(解糖系)の逆を辿るような反応経路によって糖を作りますが、この糖新生の工程には、いくつか不可逆的な反応もあります。
糖新生に必要な原料
糖を新生するために肝臓で使われる代表的な原料に「アミノ酸」があります。
このアミノ酸の原料となるタンパク質は、お肉やお魚などの食べ物や身体に備わる筋肉から調達します。
アミノ酸以外の糖新生に使われる原料には「乳酸・グリセロール・プロビオン酸」などがあります。
それぞれの原料において生み出される糖の量や糖新生に必要なエネルギー消費量も異なります。
2.糖新生の仕組み
糖新生は、エネルギー源であるグルコースが枯渇した状態で起こります。血糖値をコントロールしているグルカゴンというホルモンによって糖新生は調節されています。
糖新生の条件
糖新生は「糖」すなわちグルコースというエネルギー源が枯渇した状態で起こります。
この時、糖新生を行うシグナルとして血糖値を上げるホルモンの「グルカゴン」が
反応を調整/促進します。
糖新生の反応にはグルカゴンによって糖新生系遺伝子の発現を行う遺伝子でレベルでの反応と、タンパク質レベルで酵素活性を調節する反応の2パターンが存在します。
- 夜間
就寝時の絶食状態で糖新生は起こります。この時反応の90%は肝臓で、残りの10%は腎臓で起こります。 - 運動時
運動を行うとエネルギー源であるグルコースが減少し枯渇します。その結果エネルギーを生み出す為のエネルギー源を糖新生によって補います。 - 飢餓状態
食べ物が食べられない絶食時において糖新生は重要なエネルギー生産工程となります。絶食時には腎臓での反応が40%を占めます。
糖新生の代謝経路
「化学反応式:2ピルビン酸+2NADH+2H⁺+4ATP+2GTP+6H2O→グルコース+2NAD⁺+4ADP⁺2GDP+6Pi」
糖新生の一般的な代謝経路はピルビン酸を基質として行われます。
ピルビン酸を基に代謝される反応ではエネルギー(4ATP)を消費しグルコースを精製します。
アミノ酸由来の糖新生
タンパク質や筋肉を分解してできるアミノ酸はアラニンに変換され肝臓でピルビン酸/オキサロ酢酸に変換され糖新生を行う原料となります。
乳酸由来の糖新生
筋肉での糖代謝の過程で生産される乳酸の一部は肝臓で糖新生を行う原料となります。
グリセロール由来の糖新生
低グルコース状態によって中性脂肪が分解されてできるグリセロールは糖新生を行う原料となります。6ATP消費
プロビオン酸由来の糖新生
中性脂肪が分解される過程で発生するプロビオン酸は糖新生を行う原料となります。
糖新生はこれらの代謝経路によってエネルギー(ATP)を消費しながら糖を作る反応です。
そして糖新生が起こる条件は低グルコース状態なので脂肪分解によって得られるグリセロールや筋肉からのアミノ酸を基に反応が起こります。
つまり、糖新生が起こっている状態とは必要最低限の糖を生み出していますが、とても大きなエネルギー消費も起こっているのです。
研究報告によるとタンパク質由来の糖新生では1日に400~600Kcal消費しているとのことです。
3.糖質制限は糖新生を促進する
糖新生は日常的に起こる生理活性です。しかし、ダイエットや療養の目的で「糖質制限」とういう食事制限を行うと糖新生は亢進します。
糖質制限とは
間食を含む1日の3食の食事から「糖質」を摂取しない食事制限を「糖質制限」と言います。
糖質制限食には「糖質制限・低ロカボ・低グルコース・低GI」など複数の種類が存在しますが、ここでは1日の糖質摂取量を60g以下(1食20g以下)に抑える最もハードな「糖質制限」にフォーカスしています。
糖質制限は糖新生が促進
糖質制限を行うと、今までメインに使っていたエネルギー源であるグルコース量が極端に減ってしまいます。
つまり、糖質制限を行うことで枯渇する糖=グルコースを補う為に、糖新生が亢進します。
人の身体は「糖」と「脂質」両方のエネルギー源を使用しており、一時的に糖が減ることで中性脂肪を「遊離脂肪酸・グリセロール」に分解し、エネルギー源として使います。
しかし、糖もエネルギー源として必要なのでタンパク質を分解した「アミノ酸」と中性脂肪からの「グリセロール」などを使用し糖新生を行い「グルコース」を生み出します。
4.糖新生で注意すべきポイント
意図的に糖質制限を行う場合は糖新生が亢進します。この時、肝臓へ余計な窒素負担をかけてしまいます。そして糖新生の頻度が高い環境下では筋肉量の低下に注意が必要です。
肝臓への負担
アミノ酸から糖新生を行う場合、肝臓に余計な窒素負担をかけてしまうので尿素回路との連携が必要になります。
大なり小なり一般的な肝臓の働きに加え、大なり小なりの負担がかかってしまうので肝臓を衰弱させてしまっている糖尿病患者の方は注意が必要です。
軽度の糖尿病だと大きな問題にはなりませんが、重度な糖尿病だと肝臓が酷使されコンディションが良くないので糖新生は負担が大きいです。
糖尿病患者の方で糖質制限を行われる場合は必ずドクターに相談して下さい。
筋肉量の低下
ダイエットや療養の一環として食事制限を必要とし、糖質制限を行う場合は筋肉量の低下に注意が必要です。
日々の食事から、単に糖質だけを取り除いた場合、糖の不足に対し身体は糖新生の頻度を高めます。
糖を生み出す原料として身体に備わる筋肉をアミノ酸に分解し糖新生に使用するので筋肉量の低下を招く可能性が高いです。
糖質制限を行う場合には減らした糖質を補う為にタンパク質摂取量を増やす必要があることを理解して実践するべきなのです。